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奇跡のリンゴ - 木村秋則

モリモリファーム園主

農薬を使わなければ、リンゴを収穫することはできない。

現実のリンゴ栽培を知る人にとって、それは常識以前の問題なのだ。

これは農家でない人には、理解しにくい話かもしれない。

本書冒頭のこの数行は、「リンゴ」を「ブドウ」に置き換えても

そのままブドウ栽培の現状を表す文章になります。

ブドウの樹一本に8房程度でしたら、あるいは無農薬でも残るかも知れませんが、

専業農家として生活していこうとすると、やはり不可能ではないかと思います。

「奇跡のリンゴ」には、不可能といわれたリンゴの無農薬栽培に挑戦し、

見事成功するまでの木村さんの苦労の日々が書かれています。

木村さんのように、前人未到の領域に足を踏み入れて、

それに成功した人たちの偉いところは、後に続く道を作ったところだと思います。

木村さんが辿りついた真理を実践することで、

不可能と言われるリンゴ(あるいはブドウ)の無農薬栽培も可能になるのではないか?

と思って読み進めました。

六年の間、探し続けた答えが目の前にあった。

森の木々は、農薬など必要としていないのだ。(中略)

自然の植物が農薬の助けなど借りずに育つことを、

なぜ不思議に思わなかったのだろう。(中略)

これだ、この土を作ればいい。

木村さんが成功の手がかりを掴んだ場面です。

森の土を畑に再現するというのは、答えとして筋が通っているような気がします。

ありがとう木村さん!ちょっと森に行って土を取ってきます。

と感謝の気持ちで読み終えようとしたところ、

最後の1ページで無農薬栽培の壁の高さを思い知りました。

枯れかけていたリンゴの木の一本一本に、

木村が「枯れないでくれ」と頼んで回ったときの話だ。(中略)

木村の頼みにもかかわらず、枯れてしまったリンゴの木は少なくない。(中略)

強いリンゴが生き残り、弱いリンゴが枯れたのだろう。(中略)

ところが、例外がひとつだけあった。

木村が声をかけずにすませたリンゴの木は、一本残らず枯れてしまっていたのだ。

枯れないでくれと声を掛けたリンゴの樹の多くが生き残ったというのは、

人と植物の絆について考えさせられるエピソードです。

ただ、専業農家としてこの美談を読むと全く違った感想を持ちます。

ほとんどの専業農家にとって、栽培している農作物は生活を支える商売道具です。

農家の都合によって引っこ抜かれたりすることも良くあります。

木村さんのように、デキの悪い子供に無償の愛を注ぐような気持ちで

栽培に取り組むことに、高い壁を感じるでしょう。

奇跡のリンゴの奇跡たる所以は、この高い壁を乗り越えたところに

あるのではないかな?という感想を持ちました。


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