
今回お話を聞くのは
モリモリファーム園主のお友達で、 ワインエキスパートのAさん(68歳)。
ワインが大好きで
海外の多くの銘醸地を 実際にその目でご覧になっています。
園主はよく自宅にお邪魔して
ご馳走になっています。
ではスタート!
【インタビュー】
-普段、ワインをどういったシチュエーションで どのくらい飲まれますか?
A:毎日、食事に併せて飲んでいます。 それ以外のシチュエーションでは飲みません。 一人で飲むときは、ボトル1/3か半分程度です。
-ワインを最初に飲み始めた頃から、 現在にいたるまでの好みの変化(味や産地や品種などなど)を 聞かせください。
A:飲み始めたのは40年前。 当時からヨーロッパ系品種が好きでしたが、 それ以上、品種や産地への拘りはありませんでした。
美味しければ良い!といった感じです。
現在は判断に「知識」が加わったので、 ドコドコの何々を飲んでみたい! との思いにも影響を受けています。
-なるほど。 美味しいワインが産まれる要素として、 土地・品種・造り手の
3つが絡み合っていると思います。
インタビュアーは栽培者なので、 品種に強い関心があるのですが、 品種の果たす役割について
どのように思いますか?
A:魚の種類に似ています。 それぞれの人の好きなタイプの出発点です。
魚場によっても
料理の種類によっても 料理人によっても
料理の出来上がりは違ってくるでしょうが、
どんなにやってもタイはマグロになりません。
ほとんどの人がタイもマグロも食べると思いますが
ワインも同じです。
この品種が好きだからそれしか飲まない!
と言う人はごく稀です。
それぞれの品種をその時の状況によって楽しむ、というのが一般的です。
-なるほど!とても分かりやすいです。 日本には在来品種として『甲州』があり、 日本人によって育種された『ベーリーA』があります。
Aさんがこの2品種を楽しめる
シチュエーションは どういったシチュエーションでしょうか?
A:ワインは料理とのマリアージュ(相性)を
とても大事にするお酒です。
一般にワインに合う料理とは
現状ではヨーロッパワインに合う料理。 ということになっています。
これらの料理には甲州は
インパクトが弱過ぎて合いません。
やはり日本料理の時に甲州を飲むのが
気持ちのよい組合せだと思います。
マスカット・ベーリーAは
あの独特の「スミレ香」と合う料理が
見当らないので普段はあまり飲みません。
でも美味しくない訳ではありませんし
ワインのバラエティーを楽しむ意味でも 飲む機会はそれなりにあります。
-なるほど。 料理との相性を大切にする中で
インパクトが強すぎても弱すぎても 調和を乱してしまう。
という部分的については
とても考えさせられます。
A:横森さん(モリモリファーム園主)は
どうしてベーリーAを始められたのでしょう?
この品種は、川上善兵衛が
雪深く雨が多い新潟でも育つ品種として 明治時代(1927年)に開発されたものだ
と理解しています。
気候に恵まれている山梨で
どうしてベーリーAなのかは
常々疑問に思っていました。
ヨーロッパ系品種の苗木が手に入らなかった
とか
当時の日本(=マーケット)では 特別ヨーロッパ系品種に人気があった訳ではない
とか何か理由があると思われます。
モ:ベーリーAを栽培始めたのは10年前です。 その頃には醸造用品種として
ワイナリーから継続的に引き合いがありました。
また、周囲の農家もベーリーAを栽培していたため
情報交換し易い。という理由となります。
その前提となる、山梨でどうしてベーリーAなのか?
については私も明確な答えを持っていません。
ベーリーAは過去には生食用(醸造用ではなく)
として市場人気がありました。
生食用として人気があって
栽培難易度も低い品種ということで 栽培面積が拡大していったのではないかと思います。
A:そうなんですか!
ベーリーAは生食用としても人気があったんですね。
考えてみれば、国内でのヨーロッパ系品種は
塩尻メルローが成功してから本格的になってきたので
それまでは無きに等しい存在だったのでしょうね。
-日本のワインは美味しくなった。
良くなった。 という評価を耳にする機会が多いように思います。
Aさん自身は日本ワインのことを
どのように思っていますか?
A:相対論で言うなら
確かに美味しくなっている。 でも絶対値ならまだワイン先進国に
追い付いていないと感じます。
中々ヨーロッパに追い付かないのは
国内消費者の嗜好、食事の内容にも
影響を受けているのでしょうが ワイナリーのマーケティング戦略の
結果でもあるのでしょう。
-日本ではワイナリーと生産者が
それぞれ分離独立していて 栽培から醸造まで一気通貫とはなっていません。
ワイナリーの自社畑が増えたり
始めから栽培まで手掛ける醸造家が
増えているので日本ワインの美味しさが
向上する余地はまだまだあると思っています。
Aさんが回られた世界各地のワイナリーで
心に残っているワイナリーはありますか?
A:自社畑かどうかは
畑と醸造所が大きくて離れていない限り
そんなに大きな問題だとは思えません。
実状は知りませんが
栽培者と醸造者のコミュニケーションさえ
存在すれば、両者が別々であることの問題点は
ほとんど解決するのではないでしょうか?
ただ、これからワイナリーを興す会社であれば、 自分の望む気候や土壌を選ぶ事ができる
「自社畑」になるのは必然でしょう。
海外のワイナリーでは
ほとんどどこでも心を奪われます。
日本のワイナリーとは
「覚悟」の桁が違うような気がします。
長い歴史の中で何度も危機に直面した
とか
競走の激しさの違いとかが その根底にあるのでしょう。
もっと大きな要素として
ワインが人々の生活に締める重要性が
日本より遥かに大きいことが
根底にありそうです。
具体的な例を一つ挙げれば
酵母の問題があります。
天然酵母の方が美味しいワインが出来あがる
と言うのはほぼ世界の常識です。
海外のワイナリー(わざわざ日本から
訪ねて行くようなレベルのワイナリーですが)で 培養酵母を使っているところを知りません。
反対に日本のワイナリーでは
天然酵母を使っていると
現場で聞いたことはありません。
美味しいワインを作る為の
この程度のリスクすら犯さなくても
ビジネスが成立しているのが 現在の日本ワイナリーの環境だと思います。
品種の数もそうです。
海外のワイナリーでは
1品種、とか赤白1品種ずつ、とか
その土地に合ったもの 自分の得意なものに絞り込んで
勝負していますが
まだ日本のワイナリーの大半は
絞り込めていません。
日本のワインビジネスの環境は
まだそこまでは要求していないようです。
ただ、追いつくのは時間の問題でしょう。
我々消費者のレベルが上がる
↓
要求が高くなる
↓
日本ワインのレベルが上がる。
このスパイラルが働くのは確実であり
私自身も私のワイン仲間も
それを楽しみに
日本のワイナリーを応援しています!(=ワインを沢山買っています!)
-私も納品先のワイナリーと
コミュニケーションを持とうと
しておりませんでした。
それはよくなかったなと思います。
私はフランスのブルゴーニュ地方の
小さなワイナリーがより集まっている
雰囲気が好きです。
私の就農地域も小さなブドウ畑が
密集しているので、親近感を覚えています。
Aさんは私のブドウ畑に来て
何か感じることはありますか? 良い印象でも悪い印象でも結構です。
A:ブルゴーニュは法律の問題もあって
代替わりの度に畑が子供たちに
分割されて小さくなっていったようです。
それとは別ですが
ボルドーのワイナリーは「株式会社」 ブルゴーニュのワイナリーは「農家」の
イメージがあるので
何かしらのワイン文化の違いは
あるように思えます。
ボルドーの格付けが「生産者が対象」なのに対して ブルゴーニュの格付けは「畑が対象」
であることもそれを示唆しています。
横森さんの畑(垣根)ですが
畑自身はとても良く手入れされていて
海外の畑以上だと思います。
ただ、周りが水田であるところはユニークです。
ワイン用のブドウは乾燥した土壌が適している
ということで、水のある景色と共存している
畑はほとんどありません。 (下の方に川が流れている斜面の畑は多くありますが・・)
水はけが良くて土壌が渇いていれば
周りが水田でも関係無いのですが 見た目としては珍しいな。
という印象を受けました。
-:仰る通り水田に囲まれている
という特徴は独特だと思います。
地盤が固く地下水位が高い
水田からの転換ということで 開園から5年ほどはブドウに
病気が多発してほとんど収量は得られませんでした。
ところが土壌改良を続けていたところ
今ではほとんど病気が見られなくなり 栽培管理にかける時間も短縮傾向にあります。 病気に弱いヨーロッパ系品種の
シャルドネを栽培していて 病気に悩まされない畑というのは
誇らしいことだと思います。
今回はインタビューにお付き合いいただき
ありがとうございました。 また、機会がありましたらよろしくおねがいします。
A:ありがとうございました。